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添乗日記

台数口

◯◯◯で、わけのわからない同僚にいびられても頑張れるのは何でだろうって、思ってたらこのことを思い出した。

「台数口」

ドタバタの初添乗が終わって、「添乗員」の仕事の一部をようやく理解し始めた頃、試練がやってきた。

「台数口」いわゆる、チーフ添乗と呼ばれる人との「レンコ」だ。いろんなタイプの人がいて、この人を超えなければ、この土地は制覇したとはいえない!とまで言われる人や、完全マイペースで他の添乗員のことなんか目に入らない人、すべての行動を一蓮托生だと、、寝る時間まで決めてしまう人など、さまざまだ。

その中で、最も厳しくて辛かったのがAさんとの「レンコ」だった。Aさんは、北海道では「主」と呼ばれるほどの人で、現地では知らない人はいないほどの顔の広さをもっていた。

確かに知識は広く、仕事も的確だったと思う。ただ、かなりの意地悪でやきもち焼きだったのも事実。自分が連れてきた他の添乗員が気に入られるのが許せないのだ。毎日のように、小言を言うタイミングを計っているような人だった。

出発空港で、、、

ちゃんと睡眠はとりましたか!
ハイ。(あなたと1週間一緒に仕事かと思ったらまったく眠れませんでした)

ドキュメントのチェックはしたでしょうね!
ハイ。(あなたに突っ込まれないように、充分してます)

旗(社名の書かれたもの)にアイロンは!
ハイ。(あなたのように、スプレーまではしてませんけど)

バスの座席表は作ってありますか!
ハイ。(私の号車の分は)

それから、
ハイ。(1週間耐え抜く、覚悟はできてます)

現地で、、、

新人らしくしなさい。
ハイ。(あなたより目立つことはしません)

何でも私に聞きなさい。
ハイ。(許可なく動くなんて、怖くて出来ません)

ドライバー、ガイドになめられないように!
ハイ。(なめられないように、信頼関係は築きますけど)

それから、
ハイ。(あなたを立てるように、努力しますってば!)

部屋で、

もう寝るつもり?
イイエ。(ただ、かばんを整理しただけです)

どこに行く? 遊び?
イイエ。(トイレぐらい行かせろ!) *添乗員部屋はバス、トイレ無が多い

新人なのに、よく寝ようと思いますね?
イイエ。(あなたのおかげで、目一杯疲れて気絶してるだけです)

それから、
イイエ。(寝かせて!)

仕事が終わって、、、

問題なく帰れたのは
ハイ。(あなたのおかげです)

天気に恵まれたのは
ハイ。(あなたのおかげです)

飛行機が飛んだのも
ハイ。(あなたのおかげです)

それから、
ハイ。(すべて、すべてあなたのおかげです)

Aさんとの「台数口」が2ヶ月、8本続いた頃、私の体重は5キロほど落ちた。周りからは病気じゃないかと心配され、親からは、そんなに辛いなら今すぐやめなさいといわれたが、この時は絶対にやめる気なんかなかった。

Aさんに勝つまでは、Aさんを抜くまでは負けたくない!

「絶対に!」って気持ちだったのだ。

何年か後、Aさんは他の旅行社に移られた。その後、海外添乗の時に偶然再会し、

「今だから言えるけど、私と一緒に仕事して一度も泣かなかったのは、あなただけ。なんて、腹の立つ奴だと思ったが、結局、同期でただ一人未だに仕事を続けているんだから、勝ちってこと。まぁ、これからも頑張るんだね!」

と、言われた。

あぁ、やったこの瞬間、私はAさんに勝ったのだ!

本当に嬉しかった。思えばAさんのおかげでここまで頑張れたような気もする。Aさんから教えてもらったことは、「やり遂げる」っていうことだったのかも知れない。

Aさんへ

「あの時はコノヤローって思ってましたが、今は感謝してます。何事にも負けない根性がつきました」

いろいろとありましたが、添乗員を10年以上続けることができました。今だから私も言えます。
きっとあなたのおかげでしょう。

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